ハーバードとイェールというのは、アメリカの名門ロースクール(法科大学院)の中でも、特別な地位を占める。アメリカのエリート法曹を輩出するのが、この二つのロースクールだからだ。

 

 1987年以降、U.S. ニュースが順位を毎年更新している。200を超えるアメリカのロースクールは変動が激しいが、上位層はこの30年間においても安定しているという。この1位から14位までが「トップ14」と呼ばれる。受験カウンセラーは、「これらの学校に通うことが、国の中枢で活躍するための条件」という。逆に言えば、金融の中心地であるウォール・ストリートや、政治の中心地であるワシントンで活躍するのは、「トップ14」の名門を卒業した人ばかりなのだろう。それ以外のロースクールを卒業した人たちは、その地域に留まって、一生、州境を超えることすらないかもしれない。

 

 名門校の中でも、ハーバードとイェールは特別な意味を持つ。

 たとえば、法曹界の超エリートである連邦最高裁判事の出身校を見ると、現判事の5人がハーバードで(そのうち一人は、夫の転勤に伴ってコロンビアに移籍)、残る3人はイェール出身となっている。トランプが指名したニール・ゴーサッチが任命されれば、ハーバード出身の判事は6人になる。

 

 日本ではハーバードが名高いが、1987年にランキングができて以降、ずっと1位の座を保ち続けているのは、実はイェールの方だ。日本の東大と京大には地域的な住み分けがあるので、さほどのライバル心はないかもしれない。ハーバードとイェールは両方ともアメリカの東海岸に位置しており、ハーバードはイェールに対して強烈なライバル心を持っていた。

 学生たちが有志で行ったユーモラス劇の最後に、ハーバード・ロースクールの学長が、イェールに爆弾を打ち込む場面があったほどだ。

 このライバル心は、ハーバードとイェールには、アメリカの法曹界の中枢に人を送り込んできたという自負の裏返しだろう。ただ、外国人の私は、日本よりもさらに極端なアメリカ法曹界の「エリート主義」が、少し鼻につくようにも思っていた。

 

 その気持ちが変わったのは、「ボストン・グローブ」という新聞で「『いわゆる』法律を守るために」という記事を見つけたからだ。この題名はもちろん、ドナルド・トランプが、自分の大統領令に反対する判事を「いわゆる判事」と貶めたことを皮肉っている。

 判事、議員――反対する者を誰でも攻撃するトランプ政権のやり方を批判した後、記事はこう続く。

「私たちは評判高いロースクールの学長です。法律による論理が暴力に打ち勝つために、その職業人生を捧げてきました。法律は、私たちを分断するためのものではなく、私たちが共有している価値を表しています。たとえ、反対する者であっても、法は尊重します。証拠や主張があれば必ず吟味します。法の前で人はみな平等なのですから。……この法律の価値を傷つけたのが、大統領令を差し止めた判事に対するトランプの攻撃でした。……自由と正義を欲すること、責任と協調を求めることーーアメリカを素晴らしい国にしてきた、これらの価値を守らなくてはなりません。そして法律はそのために必要不可欠なものなのです。これは決して法律家だけの問題ではない、私たちすべてがこの価値を全身で守らなくてはいけないのです。」

 この記事は、ハーバードとイェールのロースクール学長の連名で書かれていた。

 

 このハーバードとイェールというロースクールは、法曹界の「エスタブリッシュメント」を輩出してきたエリート臭ぷんぷんの鼻持ちならない側面もあるが、法律界の「良識」の番人という気概もあるのだなぁと、この記事を読んで思ったのだった。

 トランプから指名されたはずの最高裁判事候補ニール・ゴーサッチも、トランプの「いわゆる判事」ツィートに対しては、「ほんとがっかりしちゃうよね」と批判していた。思えば、ハーバード出身の彼も、「法律界の良識」を共有しているのだろう。

 

「トランプ 対 法律界の良識」の闘いは、この4年間どうなっていくのだろう。

 

(写真はハーバードの校舎(だと思われる。隣の学校だったかも……))

ブログ170216