前回、前々回のブログで、トランプが最高裁判事の空席にニール・ゴーサッチ氏を指名したこと、それに対して民主党が抵抗するであろうことを書いた。今回は、民主党がどうやって抵抗するのか、それが得策なのかを見ていこう。
1.少数野党はどうやって抵抗するか?
前回書いたように、トランプがゴーサッチを最高裁判事に指名した後、上院でゴーサッチの思想などについて色々質問し、上院議員全100名のうち過半数の51名が賛成すれば、ゴーサッチは最高裁判事に任命される。
上院では、現在、共和党が52名いる。共和党議員は、共和党の大統領トランプが指名したゴーサッチに賛成する見込みなので、普通にいけば、ゴーサッチの就任を阻むことができない。
ところが、民主党は、今回、「議事妨害」をして、ゴーサッチがすんなりと承認されるのに抵抗するだろうと予測されている。
「ゴーサッチ氏の最高裁判事就任に賛成の人は?」と共和党が採決に及ぶのを妨害するため、民主党議員が徹底的に長い演説をすることで審議を長引かせるのだ。ときには、憲法を1条から読み上げるとか、そういう無意味な内容で数時間話し続けることもあるらしい。
議員が演説をしている限り、審議が終わっていないので、いくら議会の多数派でも強行採決に及ぶことはできないのがルールである。
仮に、議事妨害を止めさせたい場合には、上院議員60名の議員による賛同が必要になる。共和党は過半数の52名だが、8名の民主党議員を切り崩すなどしない限り、60名の賛同を得ることはできない。
この「議事妨害」というのは、別に珍しいことではない。ジョージ・W・ブッシュ大統領時代に、これまたコンサバのサミュエル・アリートを判事に指名したときも、民主党は同じように議事妨害で抵抗している。
2.民主党は議事妨害をすべきなのか
では、果たして民主党は議事妨害をすべきなのか。
これについては、二つの理由から反対の意見をいう人たちがいる。
ひとつは、ニール・ゴーサッチは意外とまともなのではないかという理由。
これはハーバード・ロースクールの憲法の教授ノア・フェルドマンの意見だ。フェルドマンによれば、過去のゴーサッチの判決を見る限り、彼は意外とまともで、超コンサバを強く押し出すよりも、どちらかといえば、良識的な判断を重んじるタイプだろうという。
ふたつめは、ゴーサッチが最高裁判事になれば、現最高裁判事であるアンソニー・ケネディが引退しないだろうという理由。
ケネディ判事は、もともとコンサバだったが、任期中にどんどんリベラル寄りになっていって、2015年6月に同性婚を認める判決を書き上げて、リベラルたちのヒーローになった。
そのケネディは御年80歳。引退を考えているとささやかれている。
現在、リベラルとコンサバの真ん中位に位置しているケネディが辞めて、トランプがコンサバを最高裁に補充すると、最高裁はさらにコンサバ優位になる。リベラルとすれば、ケネディには引退を思いとどまって欲しい。
そして、ゴーサッチが最高裁判事になれば、ケネディの引退は止められると、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストは予測する。
前々回に述べたように、ゴーサッチは、若いころ、ケネディの「調査官」をしていた。その当時、既に最高裁判事をしていたケネディを、調査官として補佐していたのだ。調査官とは、判事のお手伝いをして、判例の背景や法令を調べる役目である。それだけでなく、調査に基づいて、判事に自らの意見を伝え、議論もする。だけではなく、ときには、判事とランチをし、プライベートの話もする。判事と調査官は近しい関係を築くことが往々にしてある。
そして、ケネディとゴーサッチの場合もその関係は、極めて良好で、今でもお互いに好感情を持っているらしいと、前述のフェルドマンはいう。
したがって、ケネディは、かつての自分の若い「生徒」が、最高裁の他の判事たちとうまくなじめるように、「指導役」として最高裁に留まる可能性がある。そして、かつての「師」であるケネディの導きによって、ゴーサッチが次第にリベラルに寄っていく可能性も否定できない。
さらに、ケネディは、コンサバとリベラルの間で、最高裁の判決がどっちにも寄りすぎないようにバランスを取る役目を担っている。けっこう右寄りのゴーサッチが投入されてしまえば、最高裁はいっきにコンサバに傾く恐れがあるので、「バランサー」としての責任上、ケネディは引退しにくくなるだろうという予測も経っているのだ。
フェルドマン教授は、民主党によるゴーサッチ就任妨害は「愚かなことだ、止めておいた方がいい」と意見する。
さて、トランプによる最高裁判事の指名に民主党がどう反応するか、目が離せない。
写真は連邦最高裁判所。