1.ニール・ゴーサッチ氏の指名をただでは受け入れられない民主党

 

 この前のブログで、トランプ大統領が、連邦最高裁判事の空席にニール・ゴーサッチ氏を指名したと述べた。この後の手続きとして、上院がゴーサッチを呼んで、「中絶についてどういう意見を持ってますか?」「同性婚については?」などと、色々な質問をして、それから上院議員の過半数の決議で承認することになる。

 2016年の選挙の後、上院は全100名のうち過半数の52名が共和党議員である。ゴーサッチを指名したトランプは共和党の大統領だし、コンサバ路線を行くゴーサッチは共和党員のウケが抜群だし、この52名の共和党議員がゴーサッチの最高裁判事就任に反対する理由はない。だから、ゴーサッチは普通にいけば最高裁判事に就任するだろう。

 ところが、そう簡単には運ばないと見込まれている。民主党には、ある恨みがあるからだ。

 

 話は2016年2月に遡る。

 この月に、最高裁判事で、バリバリのコンサバだったアントニン・スカリア判事が79歳でこの世を去った(「判事スカリアの死」http://www.mayuyamaguchi.com/archives/1052986836.html)。

 これで最高裁判事9人のうち一人が空席となった。翌3月にバラク・オバマ前大統領は、穏健リベラルのメリック・ガーランド判事を指名していた。普通ならば、先ほど述べたように、上院がガーランドを呼んで、色々質問をして、最終的に承認するか否かを決議することになる。

 ところが…

 上院共和党を率いるミッチ・マコネル議員は、ガーランドを呼ぶことすら拒否して、それ以降の手続きが進まないようにしてしまったのだ。この後、ガーランドの指名は宙ぶらりんで11か月も放置され、最高裁判事は空席のままだった。

 民主党や民主党支持者は、もちろん怒った。これは上院による権利の濫用で、憲法違反なのではないかという話もあった。アメリカの憲法はとても古くて、大統領の指名権や上院の承認権について、細かく定めているわけではない。だから、憲法違反かどうかははっきりしなかった。

 

2.共和党が、なぜそこまで最高裁判事の空席にこだわったのか

 

 では、なぜ共和党はそこまで強硬な暴挙に出たのか

 スカリアというコンサバな判事が亡くなった時点で、共和党が指名したコンサバ判事4人、民主党が指名したリベラル判事4人という4:4だった。だから、スカリアの後のひとつの空席をどっちが握るかで、コンサバとリベラルのいずれが過半数をとるかが決まる伯仲状態だったのだ。共和党にとって、最後の1席をリベラルにしないことはとても重要になる。

 さらに遡れば、オバマの任期が始まる前は、共和党指名のコンサバ判事7名、民主党指名のリベラル判事が2名という、コンサバ圧倒的優位の状況だった。それが、オバマの任期中に、二人のコンサバ判事デイビット・ソウターとジョン・ポール・スティーブンズが高齢を理由に引退し、オバマが2名のリベラル判事ソニア・ソトメイヨールとエレナ・ケーガンを補充した。

 特に、ソニア・ソトメイヨールは、最高裁始まって以来のヒスパニックであり、女性判事でもあり、超左寄りとされる。オバマによるソトメイヨールの指名は、共和党系からは反感を買った。

 これでコンサバ判事5名にリベラル判事4名。コンサバのスカリアがオバマの任期中に死去したとき、共和党からすると「もういいだろう、オバマは十分に入れ替えただろう、これ以上はやめてほしい」という気持ちになったと思われる。

 

 そこで、共和党は、オバマが指名したガーランドを無視したまま放置するという、異例の作戦に出た。そうやって、2016年の大統領選で、共和党候補が大統領になって、最高裁判事の指名権を獲得することに賭けたのである。

 逆に、民主党からすると、最高裁判事の指名権が、民主党大統領から共和党大統領へと「盗まれた」という思いである。当然、恨みが募る。

 だから、上院の民主党は、おいそれとトランプが指名したゴーサッチを通さないだろうと言われている。

 

 さて、議会で少数派になってしまった上院民主党には何ができるのか、果たしてそれが民主党にとって正解なのかは、次にまた書くことにしよう。

 写真はワシントン・ポストから。

neil gorsuch