1. ニール・ゴーサッチ氏とはどんな人物?

 

 2017年1月31日、トランプ大統領が、ゴーサッチ氏を連邦最高裁判事に指名した。ゴーサッチは、超エリートのコンサバだ。

 

 ゴーサッチの母親は、女性初の環境保護庁の長官をレーガン政権で務めたエリートだ。そんな両親のもとに育ったゴーサッチは、幼少時代をワシントンで過ごし、コロンビア大学に入学した後、ハーバード・ロースクールで法律を勉強した。その後、オックスフォードに留学している。それから、現最高裁判事のケネディなど複数の判事の「調査官」をしている。

 

「調査官」とはなんだろう?

 最高裁判事は複数の重要な訴訟を抱えているので、とても多忙なのだ。全部の法律問題を全部自分で調べて、判決を書いてなんていうのは、とても無理である。だから、エリート・ロースクールを卒業した学生の内でも、超優秀な学生が「調査官」となって、最高裁判事の法律調査を助けたり、判決の土台を書いたりする。

 

 端的に言ってしまえば、ニール・ゴーサッチはエリート中のエリート。トランプは、もっとエリート臭のしない人を判事に指名するのではなといわれていたので、やや意外だった。まあ、もっとも、最高裁判事ともなれば、もともとエリートぞろいで、ゴーサッチが最高裁判事となれば、全9人のうち5人がハーバード・ロースクール卒業ということになる。

 

2. ゴーサッチ氏はどんな考えを持っているの?

 

 ゴーサッチは伝統的なコンサバ路線といわれる。

 アメリカでは、リベラルとコンサバが鋭く対立している。

 

 例えば、宗教について、コンサバはキリスト教信仰が篤くて、リベラルは宗教に冷淡である。次に、人種について、コンサバは本音では白人優位だと思っているのだろうとされ、リベラルは多様な人種による「ダイバーシティ」の価値を信じている。

中絶について、コンサバはキリスト教の教義に基づいて絶対に反対し、リベラルは女性が産む/産まないを選択することに賛成している。同性婚については、コンサバはやはり宗教的理由から反対し、リベラルは色々な形の結婚があってそれが多様性を形作るという理由から、賛成している。

 

 アメリカの場合には、大統領がコンサバならばコンサバ判事を指名し、リベラルならばリベラル判事を指名する。

 そして、人種の平等、中絶や同性婚などが、最高裁で争点となるとき、法廷は政治の代理戦争のようになる。たとえば、リベラル判事たちは人種の平等に賛成し、中絶にも同性婚にも賛成する。コンサバ判事たちは人種の平等にはやや後ろ向きで、中絶にも同性婚にも反対する。

 さらに、連邦最高裁判事は、原則として自分で辞めるというか、死ぬまで任務を続けることになる。だから、大統領の任期よりも判事の任期のほうがずっと長くなる。大統領にとって、自分の政治信条と近い判事をできるだけ多く最高裁に送り込むことは、その後のアメリカの道筋を決める上で、とても重要なのである。

 

 そういう状況を踏まえたうえで、トランプが指名したニール・ゴーサッチはというと、彼はかなりコンサバ寄りとされる。

 コンサバは基本的にはキリスト教重視で、キリスト教の教義に反することは認めない。キリスト教は「多く産むことはいいことだ」と思っているので、中絶はおろか避妊も認めていない。

 宗教を重視するゴーサッチは、女性の避妊する権利について厳しい判断をくだしたことがある。

 

 ニューヨーク・タイムズによれば、ゴーサッチは現在の最高裁判事のなかで2番目に右とされる。一番右なのは、トーマス・クラレンス判事だが、この人は黒人なのに超コンサバで、黒人と白人の平等を認めない厳しい判決を出したりするので、黒人コミュニティからは「裏切者」扱いされている。

 

 このスクリーンショットはニューヨーク・タイムズから。アメリカの現連邦最高裁判事をコンサバからリベラルまで並べていて興味深い。

 さて、そもそもなぜトランプが最高裁判事を指名するに至ったのか、この指名を受けて今後アメリカはどう動くのかは、次に書こう。

最高裁判事_イデオロギー2