東大が、来年4月から一人暮らしの女子学生に対して月3万円家賃を補助するというニュースがあった。志願者、応募者とも20%に留まる同大の女子比率を増やすことを狙っているらしい。このニュースに対しては、女性優遇措置として許される、いや男女逆差別だと、賛否が分かれた。

 私は、この家賃3万円がアファーマティブアクション(優遇措置)として許される範囲か、差別かという議論に乗る気にはなれなかった。そもそも、家賃3万円の補助自体がピンと来なかったからだ。かつて東大女子であった身としては、「東大に志願しない理由って、うーん、たぶん、そこじゃないんだよなぁ」と思ったからだ。

 私が東大と慶応に合格したとき、東大に進学すると母に言ったら、「もしかしたら慶応のほうがいいかもよ?」とちょっと不安げだった。その不安は、決して家賃を理由としたものではなかった。けれど、私はそんな母の憂慮なんて気にも留めずに、東大の門をくぐった。

 

1. 東大女子は、東大男子と他大女子の中間

 

 私がはじめて母が何を心配していたか思い当たったのは、新入生歓迎のイベントでのことだ。つまり、東大に入ってすぐに母の憂慮がなんとなく現実のものとなってしまう。

 「東大男子3,000円、東大女子2,000円、他大女子1,000円」と料金を要求されたときに、私は「男子」にも「女子」にも属さない特殊な分類の中に、自分が置かれてしまったことに気づいた。この料金設定って、東大女子の立ち位置をよく表している。「東大女子」は、将来を嘱望された男子学生たちと若く美しい女子大生たちの、ちょうど中間くらい、「男子」なんだか「女子」なんだかよく分からないところに、位置付けられる。

 東大のテニスサークルは全部で100を超えるくらいバラエティに富んでいるのに、東大女子が入ることができるものは3つしかなかった。「テニスサークルというのは、東大男子と他大女子との出会いの場で、東大女子がいると雰囲気が悪くなる」と言われていたのだ。

 慶応に進んだ女の子たちは、こういう屈辱を受けることはなかったらしく、私はいまだになぜか、早稲田の女の子たち、通称、「早稲女」に親近感を持っている(笑)。

 

2. 東大主席とおバカな女の子

 

 卒業してしばらくしてから、ある知り合いが私に教えてくれた。金融関係者数人が集まった飲み会で

「東大主席タイプの女の子とおバカでカワイイ女の子、どっちがいい?」と聞いたら、全員が「おバカでカワイイ女の子」を選んだそうだ。

 この「東大主席タイプ」というのは私を名指ししたわけではなく、特に他意はないだろう。それでも、私はしっかり傷ついた。

 それは、二つのことを学んだからだ。

1)東大主席というのは女性としてはむしろ恥…

2)東大主席と可愛らしさは両立しない…

 そんなのあらかじめ知っとけという感じかもしれないが、私はそのとき確かにそれを実感したのだ。

 

「才色兼備」という言葉は、才知と可愛らしさは同居しないという前提の上に生まれた言葉なのだろう。よくお勉強してきたのに、まあそんなにブスでもないじゃんくらいの意味なのかもね。

 

3. 職場では男子、女子どっち?

 

 職場では、私は男性上司のほうがどちらかと言えば働きやすいと思った。というか、女性上司の中に残る「女っぽさ」を見るたびに、ちょっと「う…」って感じることが多かった。

 まあ、これを性差より個人差の方がよっぽど大きいからステレオタイプはよくないという自戒はしつつ、あえて言えば、女性上司は、全体として柔らかかったり細やかだったりするかもしれないが、気分屋で指示が秩序だっていないとの評判の人もいた。部下の面倒を見て自分の手で育てるよりも、年上のおじさま方に可愛がられて出世したとか、口さがない噂を聞くたびに、なんとなく「う…」って思うのである。

 

 ああいう感じやだなぁと思ったから、体力ないから早く帰りたいですとか、女の子だから重い物は持てませんとか言わないで頑張ろうと思って、20代は一生懸命働いたつもりだ。だけど、30代になって後輩もできたある日、徹夜明けに後輩の女の子から電話があったときに、「うわっ、この甲高い声、徹夜明けの脳天に刺さるわ。ちょっと無理」って思ってドキッとした。自分より年の若い子の「女らしさ」に対する不快感って、おそらく嫉妬以外のなにものでもなくて、あれだけ醜いと思ってきた「女っぽさ」は私の中にも確かにある。そう気づいた瞬間の「ぞっ」て感覚はいまだに忘れられない。

 

 冷静に考えると、私は自分自身の女性性にずっとこだわってきたし、ときには積極的に利用してきたのだと思う。だから、セクハラのようなことが起こるたびに(私たちの世代は少なくなったとは言え、ないわけではない)、フェミニスト然として相手に激怒するよりも、むしろ自己嫌悪のほうを強く覚えてしまう。

「私って、職場でも女を捨てられなくて、媚び媚びで、それが外まで出ちゃってんだろうな」

 で、自分の女性というセクシャリティがなんか不潔だと思いつつも、潔く男になりきれるわけでもない。

 

 国会答弁で矛盾を突かれて涙ぐむ稲田朋美氏を見ると、その稚拙な女っぽさに「曲がりなりにも防衛大臣の立場で…」とイラっとする。だからって、そのときの質問者の辻元清美氏のように、私もショートカットにしちゃえとまで割り切れない。

 私たちは結局どっちつかずだなという気がする。

 

 自分の女性性に対する誇りと嫌悪感…

 娘が自分のセクシャリティに対する複雑なわだかまりを持つことになるのを、本能的に懸念して、母は私が東大に進むことを不安視したのだろうか。

 これがおそらく東大女子の生きづらさであって、東大に女子志願者が増えない遠因ではないかという気がする。自分と社会の両方が要因となって作り出されるものだと思うんだけど、家賃3万円という簡単な解決ではなくて、こちらの方にもっと切り込むべきではないかと思うのだ。

 東大

(写真はwikipedia