先の大統領選においては、3人の傑出した女性が話題になった。
一人は言わずと知れたヒラリー・クリントン、民主党から指名を受け、トランプと大統領の座を争った女性である。もう一人はトランプの妻のメラニア・トランプ。共和党大会では、ミッシェル・オバマ大統領夫人のスピーチを「盗用」したのではないかと話題になった。そういう意味では、トランプの追い風となったのか、向かい風となったのかは不明だが、とにかく話題を誘ったことは確かである。そして、今、日本でもアメリカでも注目されているのは、トランプの長女、イヴァンカ・トランプ。美貌の元モデルであり、敏腕実業家であり、そして父を勝利に導いた一人として注目されている。
私から見ると、ヒラリーは“東大の女”、メラニアは“女子大の女”、イヴァンカは“慶大の女”といったところか。
1.東大の女:ヒラリー・クリントン
ヒラリー・クリントンはもちろん東大の女である。
ハーバード・ロースクールに留学した私はひた隠しにしていたが、アメリカのロースクールランキングのトップは、ハーバードではなくて、イェール・ロースクール。ヒラリーはイェール・ロースクールに学んで弁護士となったのだ。
ミドルクラスの家庭に生まれた彼女は、幼い頃から聡明で負けず嫌いだった。ガールスカウトでも活発に活動し、トップ5%の成績で高校を卒業した。
その生涯を通して、女性の権利の向上に努めてきたヒラリーは、理性的であると同時に、どこか無理をしているようで苦しげである。
1998年、夫ビル・クリントンとモニカ・ルウィンスキの不倫スキャンダルが世界を騒がせ、ビルは弾劾されかかった。政治的に危機に瀕した夫を、ヒラリーは公式には支え続けることを選んだ。傷ついた一人の女性としての自分を決して表に表すことなく、ときには口汚くモニカを罵ったのである。
そうまでして、ビルとの結婚に留まったヒラリーについては、政治的なインパクトを保つために、愛のないパートナーシップを継続した「計算高い女」というイメージがつきまとった。それが「嘘つき」という今回の選挙での批判につながったのではないか。
私には、ヒラリーはむしろ不器用に見える。自分の内面にいまだに残る少女のようなナイーブな側面が外に出ることを極度に恐れ、常に理知的な女性という戦闘服の下に潜り込むことで、自らを守ろうとした彼女は、「東大女性」の不器用さを彷彿とさせる。
2.女子大の女:メラニア・トランプ
それに対して、メラニア・トランプは女子大の女である。
私は今、罪悪感にさいなまれている。通ったこともない「女子大」をステレオタイプ化して述べることで、話をおもしろくしようとしているのだ。正直、女子大に通う学生には多様性があるのは十分理解しており、彼女たちを侮辱する気は毛頭ない。話を分かりやすく、面白くするために、仕方がなかったと理解してもらえると、大変ありがたい。
NHK・Eテレの『ねほりんぱほりん』というものすごい番組がある。毎回、かなり攻めてくるので、「よくぞここまでNHK」と思っているのだが、その特集の中に「ハイスぺ婚」というのがあった。
東大卒、年収1,800万円、6歳年上の会計士の男性と結婚した31歳のセレブリティ妻が、彼女の結婚観を語るのだが、彼女にとっては「努力して自分が1番になる」よりは、「努力して1番になってくれる男性を見つける」ことが至上命題なのだ。彼女が明確にしたのは、同程度の偏差値ならば、共学よりもブランド力がある3S1F(3S=聖心、清泉、白百合/1F=フェリス)の女子大に通うほうがいいという価値観だった。同じ価値観は、林真理子の『下流の宴』の中でも披露されている。
もちろん、その努力はすさまじく、尊敬を惜しむべきではない。
メラニアもまた、トランプとの結婚によってのし上がった女性でもある。
スロベニアの貧しい家庭に生まれた彼女は、有り余る野心をモデルとしての活躍と、富豪男性との結婚に振り向けた。(こうやってちょっと意地悪な見方をしてしまうのは、東大女性のひがみなのだろう。)
3.慶大の女:イヴァンカ・トランプ
それに対して、イヴァンカ・トランプは慶大の女だろう。
生まれながらのお嬢様で美人だった彼女は、ペンシルベニア大学のウォートン・スクールという名門に入学して、上位1/3の好成績で卒業する。結婚して3児の母でありながら、実業家としても活躍する彼女は、「男は外で働き、女は家庭を守る」という従来の共和党的価値観から自由である。
共和党大会でイヴァンカは父の直前に登場した。そして、あろうことか共和党大会でリベラル政策を披露したのである。「男女の賃金格差をなくす、女性の産休を作る」彼女が繰り出す言葉に、これは民主党大会かと皆が錯覚したし、ヒラリー自身も「同意見よ」とツイートした。
イヴァンカ自身が、「私たち若い世代って、共和党とか民主党とかないのよ」と述べたけど、彼女はそういう従来のフレームにとらわれない。そして、彼女の存在自体が「だいじょうぶよ。パパって口ではああいってるけど案外まともなの。ほら、私だってこんなに真っ当に育ったでしょ」というサインを発して、都会で働く若い世代の女性支持を得たのである。
4.ロール・モデルの交代
昨年の留学中に知り合ったハーバードで働くお医者さん、内田舞さんは「ヒラリー世代女性が必死で作り上げた傘に守られて、性差別を受けた経験がない世代の白人女性層は、女性初大統領誕生にエキサイトできなかったのよ」と言った。
ヒラリー世代の「女性」たちの髪を振り乱した必死さって、今の世代の「女の子」たちには通じにくいのかもね。
「デートは割り勘!」「いや、絶対私も払う!」「何それ、払わせないってバカにしてんの?」と意地を通してきたフェミニストたちは、
「え、デートでは当然おごってよ。だって、あなたの前で可愛くあるために、髪とネイルにお金をかけてるんだから。え、でも、仕事はちゃんとしたいし、フェアに評価されたいわ」という女の子たちに取って代わられようとしている。
女性のロールモデルの交代を感じた、今回の大統領選だった。
写真はCNNから、イヴァンカ・トランプとヒラリーの娘チェルシー・クリントン。娘世代はお友達らしいですよ。