1. おバカであることは、カワイイことなのか?
“OMG!!! Lyrics are SO DUMB!!” 「なにこれ~。この歌詞、すっごいバカなんだけど!!」
ハーバードでクラスメイトだった香港の女の子からメッセージが来た。
きっけかは、日本の男性は”dumb girl”が好きなのかと、彼女から聞かれたこと。HKT48の『アインシュタインよりディアナ・アグロン』という歌をきっかけに、日本人男性はdumb girlが好きだというYouTubeビデオが、海外にも出回っているらしい。『アインシュタインよりディアナ・アグロン』の歌詞の訳を探して、クラスメイトに送ったら、冒頭の答えが返ってきた。
「女の子は可愛くなきゃね 学生時代はおバカでいい」と歌う、この歌詞は確かに腹立たしい。しかし、もっとも腹立たしいのは、この歌詞が一抹の真実を映し出していることではないだろうか。
私が東大と私大に受かった時、母は私に私大に入学することを薦めた。「東大なんて行っちゃったら、みんなに敬遠されるわよ」といって。別に、これは日本だけの話ではない。先ほどの香港の女の子もこう言っていた。
「同じ大学ですっ ごいモテる女の子がいたんだけど、『わかんな~い。教えて~』って男の子に勉強を教えてもらって、『えっ、すご~い!!』って褒めて、いっつもそんな感 じ。でも、分かってないわけないと思うんだよね、実際、成績なんかさ、教えてくれた男の子より、ずっとよかったりするからさ」
シンガポールから来た女の子は、オックスフォードの医学部を卒業して、イギリスとアメリカで医師の資格を取得した。そして、ハーバード・ロースクールで法曹としての教育も受けた英才。彼女は、
「シンガポールに帰っても、私なんか敬遠されちゃって、きっとひどいことになるよ」
と嘆いていた。
だから、男の子の「教えてあげたい」願望に、「うんうん、すご~い!」とうなずいてくれる女の子が人気っていうのは、日本だけではなくて、少なくともアジアの一定の地域で共通の現象だろうと思う。
あらゆることに、 「でも、でも」って突っかかる人は、確かに話しにくい。分からないことを、分からないという素直さは大切。教えてもらったことに対して、「ありがとう」と 答える感謝も大切。自分の意見を述べる前に、まず、人の意見を聞くことが大事だっていうのは、私も全く異論がない。
だけどね、女の子に限って言えば、「おバカであること=可愛いこと」であるかのように持て囃すのは、いかがなものだろうか。
「分かっているこ とを、知らないふりをする女の子」と、「自分よりも教養が低い女の子としか、安心して話せない男の子」というのは、「聞き上手」「教え上手」とは、全く次 元を異にする話である。つまりね、女の子が今の自分よりもワンランク低めを装うわけでしょ。それで、男の子が、自分より、数段、教養が低そうな女の子しか 相手にしないわけでしょ。
これによって、下へ下へという連鎖が生まれてくるのである。向上心とは真逆の現象である。これが健全であろうはずがない。
2. 無教養であることは、美しくないのか?
日本でいうところの、「おバカ」っていうのは、場合によって、文化圏によって、とても恥ずかしいことだし、失礼なことになりえるのだと思う。
留学中に、南アフリカ出身のクラスメイトから見せてもらったYouTubeの動画がある。アメリカではものすごく有名な画像であるらしい。再生回数が6,500万回を超えている(※下記で紹介しているのは、字幕付きのバージョン。6,500万回を超えているのは、字幕がないバージョン。)
舞台は、ミス・ティーンU.S.の2007年のファイナル。14歳から19歳の若い美女たちが、それぞれの美貌を競うミス・ティーン。栄誉ある5人のファイナリストに選ばれたサウス・カロライナ州代表のケイトリン・アプトン。あと残すは各審査員からのひとつの質問に答えるだけ。
トップに選ばれたケイトリンに与えられた質問はこれ。
Recent polls have shown a fifth of Americans can't locate the U.S. on a world map. Why do you think this is?
(最近の統計によると、米国人の1/5が、世界地図の中でアメリカの場所を特定できないとのこと。これはなぜだとあなたは思います?)
確かに難しい質問 である。地理に関する国全体の教育レベルの問題でもあるだろうし、アメリカの教育格差の問題もはらむだろう。さらに背景としては、自国一国にしか関心を持 たず、国際社会におけるアメリカの位置づけを正確に把握しようとしない、アメリカという国の深層を問うているようでもある。
さて、ミス・ティーン候補はこのむずかしい質問に答え損ねて、全米の失笑を買ってしまった。
https://www.youtube.com/watch?v=WALIARHHLII
以下が、彼女の答えのスクリプトである。
I personally believe that U.S. Americans are unable to do so because, uh, some, uh, people out there in our nation don't have maps and, uh, I believe that our education like such as in South Africa and, uh, the Iraq, everywhere like such as, and, I believe that they should, our education over here in the U.S. should help the U.S., uh, or, uh, should help South Africa and should help the Iraq and the Asian countries, so we will be able to build up our future [for our children].
この英語を正確に和訳するのは困難である。アメリカ人ですら、回答の意味が分からなかったのことなので、英語として意味をなしていないのだろう。
個人的には、アメ リカ人がそうすることができないのは、えっと、なかには地図を持ってない人もいるから。えっと、ほら、私たちの教育って、南アフリカみたいに、えっとイラ クみたいに、他のほら、ほかのあらゆる国みたいに、私、こういう国々のすべきことって、えっと、アメリカの、私たちの教育がすべきことって、アメリカを助 けること、えっと、うんと、そうそう、南アフリカとか、イラクとか、アジアの国々を助けることだと思います、未来を築き上げるためにね、ほら子どもたちの ためにね。
この回答は、いろ いろな意味で間違っている。「地図がないから」という答えは、おそらく想定されていなかった。アメリカという国の教育に問題があるという質問に対して、 「私たちアメリカが、南アメリカとか、イラクとか、アジアの国々とか、そういうところを助けてあげなきゃね」という回答はおかしい。“the Iraq”と“the Asian countries”に入る“the”という定冠詞は、文法として間違っているだろう。このコメントは、受け取り方によっては、南アフリカ、イラク、アジアの国々に失礼だろう。実際に、南アフリカのクラスメイトは、怒ってたしね。
彼女は、無教養を露呈したことで、ミス・ティーンの栄冠を逃すのである。無教養は、美しくないということか。
3. 学ばないことは、美しくない
個人的には、若干18歳の女の子に、多くを問うのは酷だと思う。分からないこと、回答で失敗することが、悪いとは思わない。本当に美しくないのは、失敗から学ばないことである。
ミス・ティーンの舞台での手痛い失敗の数日後、ケイトリンは、NBCのThe Today Showでやり直しの機会をもらった。そのときの彼女の回答が以下である。
https://www.youtube.com/watch?v=Rt9NNdm3lkI
Well personally, my friends and I, we know exactly where the United States is on our map. I don't know anyone else who doesn't. And if the statistics are correct, I believe that there should be more emphasis on geography in our education so people will learn how to read maps better.
ええ、個人的には、私や私の友人の話ですけど、合衆国がどこにあるのか正確に理解しています。それが分からない人を、私は知りません。もし統計が正しいのならば、地図の読み方をもっとよく理解できるように地理の教育にもっと重点が置くべきだと、私は思います。
司会者二人は拍手しているが、ミス・ティーンの舞台での有名な失敗よりも、私はこっちのほうが「美しくない」ように感じた。数日の時間を与えられてなお、手痛い失敗から学ぶところがなく、ものすごーく浅はかな回答に終始しているからである。
[結論]
分からないことを、素直に分からないというのは、大切なこと。けれど、分かっていることを、分からないふりをするのは、それとは全く別のこと。
分からないこと、失敗することは、悪いことでは全くない。悪いのは、失敗から学ばないこと。
女の子は「おバカ」のほうがカワイイと持て囃すのは、間違ったことであろう。
写真は、ミスUSA オフィシャル・サイトから