日本を深く悲しませ、憤らせているであろう、バングラデシュの人質事件のニュース。犠牲になった方々のご冥福を心からお祈りするともに、ISISの国際的な広がりに脅威を覚えた。ニューヨーク・タイムスなどでもかなり大きく取り上げられているので、こちらでの論調と気になった点をお伝えしたい。

アメリカのメディアがこのニュースに注目しているのは、「ISISが次なる段階に進んだ証拠」と捉えているからである。今回の人質事件は、組織の中心地であるイラク・シリアを離れたバングラデシュの地での人質事件で起こった。その事件にISISが犯行声明を出していることから、組織が中東だけではなくて、点々と広がりを見せ、国際的なネットワークを持ちつつあることに対する、脅威を説く論調が目立つ。

バングラデシュという国に暮らす1.6億人の多くがスンニ派であり、25歳未満の人口が多くいる。ISISが新たに人員をリクルートするには理想的な「マーケット」なのである。こうして国際的に点々と拡散していくテロを、従来の軍事行動によって止めることができるのだろうか、テロとの戦いは新たな局面に入ったのではないかというニュアンスが目立つ。

その他、報道で気になっている点を簡単にまとめてみる。

まずは、実行犯たちがソーシャル・メディアを通して事件を拡散しようと躍起になっていたという報道。レストランの顧客を殺害した後に、ワイヤレスネットワークを入れるように従業員に命じて、その様子を拡散しようとしたという。

こちらの報道では、特に「日本人が標的にされた」という内容は見当たらないように思える。けれど、外国人を狙った犯行であることは強調されている。

「ベンガリ(バングラデシュ人)はいるか」レストランに入った実行犯は、まずはレストラン内の人を二種類に分けた。ベンガリに対しては、「慌てる必要はない。ベンガリを殺すつもりはない。外国人だけを殺す」と述べた。そして、外国人の服装やアルコール対する嗜好などに対して「彼らのライフスタイルを現地人がまねる。イスラム教の浸透を阻害する」と不快感をあらわにした。ヘジャブというイスラムの伝統的な服装をした女性を解放し、さらにベンガリの男性の一人も解放しようと、申し出た(ただ、この男性は、アメリカ人とインド人の女性と連れ立って食事をしており、彼女たちの解放は許されなかったのでその場にとどまった。この男性は結局生きて助けられることはなく、土曜日の朝に死体となって発見された)。こういった情報が淡々と述べられている。

もっとも、気になったのは、実行犯をややヒロイックに描写しているのではないかと思われる部分。

レストランのコックの弁を通してであるが、「彼らはスマートで、ハンサムで、教育されていた。彼らを見れば、こんな事件を起こすような輩とは信じられないだろう」との証言や、現地軍により鎮圧される直前のところでは、死を決意した実行犯が「僕らはいくよ。天国で会おう」と言い残してレストランのドアを開けたという証言などが載せられている。実行犯が都会的なベンガリを話し、外国人と会話するときには英語を話したという証言は、実行犯は現地ではむしろ富裕層の出身であるといった報道にも矛盾しないように思う。

こういう人質事件について、実行犯を少しでもヒロイックに描写するというのは、私は絶対にやってはいけないことではないかと思うのだ。こういう映画のワンシーンのような描写が、世界の若者をむしばんでいく可能性はないのだろうか。

この事件に対する悲痛な思いを抱きながら、こちらの報道にも注視したい。

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(写真はニューヨーク・タイムスから)