EUの一国として過ごした43年間の歴史に終止符を打つべきか」この問いにイギリス国民は、「YES」と答えた。

 

イギリスは、もともとEUに対しては一定の距離を保っていた。大陸と海を隔てたこの国は、自国独自の文化や伝統があった。EUの中心としてリーダーシップを発揮するドイツに対して、イギリスはEU内で十分な影響力を保てていないという懸念もあった。そして、近年の移民に対する恐れが、EUから離脱したいと願う勢力に拍車をかけた。

 

実際に、移民に対する恐怖が、EU離脱という決断の決め手になったのである。(国民投票は法的拘束力はないから「決断」ではないと突っ込まれそうである。仰る通り!実際に、「政府として条約に従って離脱の手続きを取るかは、次期首相に委ねる」とキャメロンも言っている。しかし、国民投票の結果を無視するのはやはり難しいのではないか。)EU離脱派は、EUによってイギリスのアイデンティティ、独立性そして資本が奪われていることを説いた。そして、移民によって、仕事が生活がイギリスという国が乗っ取られることへの恐怖を煽り立てるような論調も、多くあった。

 

それに対して、EU残留派は、EUから離脱することのリスクを説いた。最も大きな経済ブロックのひとつから抜けることになる。イギリス経済への打撃は予測不能である。ロンドンは、世界のフィナンシャル・センターとしての地位を、ライバルであるパリやフランクフルトに奪われてしまうかもしれない。イギリスは、世界の中でリーダーシップを発揮できなくなるかもしれない。

 

このEU残留派の主張は、ときとしてエリート主義的だと批判された。実際に、EU離脱を支持するのは、所得が低く、教育レベルも低い層が多かったのである。

 

EU残留派とEU離脱派の構図は、若者 v. 高齢者、都市 v. 田舎、イングランド v. スコットランドという構図のほかに、移民に対する反対と、エリートに対する反感も大きな影響を及ぼしたのである。

 

このEU離脱派の支持層は何かと似ていないだろうか。そう、アメリカにおけるトランプ支持層である。メキシコ人を「レイピスト」「ドラッグを運んできている」と批判する。ムスリムについては、「9.11があったときに、通りに出てお祝いしたらしい」と繰り返し主張する。そうやって、移民の排斥を唱えて、アンチ・エリート層から絶大な支持を得ているトランプ。今回の「Brexit」がトランプ旋風と非常にいているのではないかと、私は思った。

 

実際に、オバマやクリントンが「イギリスの決断を尊重する」と中立的な発言をする中で、トランプは「そうなると思うって、言ってたじゃないか。」とどこか得意気。さらに、

 

I think it’s a great thing (素晴らしいことだと思う)

 

と発言している。

 

人やモノの行き来が進み、一国の出来事が世界経済に影響するような、高度に連携する世界経済の中で、自国の繁栄のためには、他国の平和・安定・繁栄が不可欠であることは、誰もが理屈では分かっているはずである。

 

「アメリカの勝利」を強調するトランプではあるが、移民を排斥し、他国を不幸にすることで得る、一時的な勝利は長くは続かないだろう。

他人のパイを奪うことで、自分のパイを拡大するのではなく、全体のパイを大きくするリーダーシップこそが望ましい。繰り返し語られるこの理屈は、自明のようで、一人一人が行動に落とし込んでいくのは難しい。現に、イギリスは離脱を国民投票で選択し、トランプ支持はアメリカを席巻している。

 

日本でも、早晩、移民問題に向き合わなくてはいけなくなるかもしれない。そうでなくても、国際社会の中で、自国の短期的な利益を優先するか、他国との協調を選ぶかという課題を突き付けられることが、必ずあるだろう。

そのときのために、イギリスのこの決断から学ぶべきことは何か。

イギリス人のクラスメイトが「確かな事実(fact)は、常に根拠のない恐れ(fear)に打ち勝つべきだと思う。国家や多文化が協調することの大切さは、常に移民排斥思想に打ち勝つべきなのだと思う。それなのに」と嘆いていたけれど、私も本当にその通りだと思う。

 

イギリスのこの決断を世界中が見ており、そして決して忘れないだろうと、私は思う。

世界を混乱に陥れたこの国を、これから他の国がリーダーとして認めるかどうかは甚だ疑問である。

アメリカがトランプを大統領に選出したって同じことが言える。

 

日本も、今、多くの面で岐路に立とうとしている。外交関係も平和憲法もしかりである。根拠のない恐れではなく、確かな事実を信じなくてはいけない。その決断を、世界が見ていることを忘れてはいけないと思う。

 ブログ160627②

(写真はhttp://www.salon.com/から引用)