アメリカの大統領選もかなり進んでしまったので、ここらへんで現況とおさらいを。
前半の山場と言われ、複数の州で指名選が重なるスーパー・チューズデイが3月1日に終わった。結果は、トランプが6州で、クリントンが7州での勝利を固め、2番手候補との差を広げた形である。
その後、3月5日土曜日にトランプ、クルズ、サンダースがそれぞれ2つの州で勝利をおさめ、クリントンが1つの州で勝った。戦いはまだまだ続いていく。
まず今回は、トランプ氏がリードしている共和党のおさらいから。スーパー・チューズデイの直前の2月末にトランプは超がつく大失言をした。CNNのインタビューで、白人至上主義のKKK(クー・クラックス・クラン)元幹部からの支持を拒否しなかったのである。
「メキシコ人はレイピスト」という彼に何をいまさらと思われるかもしれないが、それは違う。外国人や移民に対する差別と、黒人に対する差別は、アメリカ国内では全く次元の違う扱いを受ける。人間を「所有物」として扱った奴隷制の後、アメリカの歴史は黒人差別とそれを乗り越えようとする動きを主軸にして展開していく。だからこそ、黒人差別の禁止というのはアメリカのコア中のコアである。
ハーバードで、ある年、たった一人留年となった学生は、成績が悪かったからではなくて、グループディスカッションの時に「こんな黒人たち相手に議論できるか」とつぶやいたからだそうである。白人至上主義を表だって口にすることは、自らの知性を否定することと同義なのである。だからこそ、極右の候補者であっても、少なくとも露骨な形で白人至上主義を表明することは決してないはずなのである。
その絶対的な禁忌を、トランプはいとも簡単に破った。
そして、それにもかかわらず、6つの州で勝利した。
もはや、共和党内で彼を止めることは不可能と、世論が悲観的になるのもうなづける。
スーパー・チューズデーを終えて、共和党内では、彼を抑えようという包囲網が本格的に広がってきている。
討論の場では、2番手のクルズと3番手のルビオが共闘して、トランプを非難する場面があった。
共和党でも支持の厚い前大統領候補のロムニーも、トランプを「詐欺師」「偽物」と口を極めて、避難している。
そうはいっても、ニュースも新聞も見出しは常に、「トランプに対する共闘」「トランプを非難するロムニー」と、「トランプ」「トランプ」ばかり。「トランプか否か」が軸になっている時点で、彼の思うつぼなのかもしれない。
名門のブッシュが多大な選挙資金を投じたのちに、撤退を表明したのを尻目に、トランプの費やした選挙資金は最も少ないと言われているのだ。その巨額の私財をほとんど損なわずに、これだけ選挙戦を戦えるのは、広告費を割かなくとも、連日、マスコミが「トランプ」「トランプ」と報じてくれるからだろう。
それにしても不思議なのは誰がトランプを支持しているのか、である。もちろん、いろいろなデータがあると思うのだけれど、ボストンに住んで、日々、アメリカの人と会って話をして。。。そういう日常を通して、トランプが支持を受けている背景が、どうしても肌感覚として理解できないのである。実際に、トランプを支持ているというアメリカ人に、会ったことがないのである。共和党支持者の3分の2はトランプ以外に投票しているという。そう考えると、トランプ支持者というのは、実は希少であって、今まで会っていないのも不思議はないのかもしれないのである。
そう考えていくと、誰が支持しているのかわからないまま、それでもみんなが「トランプ」「トランプ」と騒ぐうちに、もとはちっぽけだったものが、巨大な風船のように肥大していく、そんなイメージが、私の中に浮かんでくるのである。
(写真はニューヨーク・タイムズから)