日本に帰国してテレビをつけたら、道端ジェシカとジェンソン・バトンの離婚報道が流れていた。「婚前契約がないため、焦点はバトンの財産の分配。婚前契約がなければ60億円超の彼の年収は50/50が原則という・・・」報道を見て気になることがいくつかあったので、コメントを。
1.婚前契約の効力について
まずひとつめは婚前契約の効力について。弁護士のコメントによれば、「婚前契約はそのまま文言通りの効力がある」とのこと。これはやや誤解がある。かつては、婚前契約の効力というのは、アメリカでは完全に否定されていた。結婚した女性は契約の主体になることはできないとされた時代(結婚した時点で資産は旦那さんのものになるから、旦那さんに契約してもらって、それに従いなさい、ということ)、婚姻直前であっても同様に女性には契約の主体になる力はないとさ れたのである。
そこから徐々に婚前契約の効力が認められるようになり、今では、ほぼ普通の契約と同じような扱いにされつつある。しかし、普通の契約とは違って執行に二つの条件が付くのである。①婚前契約を締結する前に財産を全部お互いに見せ合っていること、②婚前契約を締結した時点ではなくて、執行する時点で、一方に特に不利益なものではないこと。
まず①について。普通の契約は、財産をお互いに全部見せあいっこする必要があるかどうかは、当事者の判断次第。当事者間で勘違いがあったとしても、まあそれは「自 己責任」かもね、と。それに対して、結婚の場合には、そこはさすがに隠し事なく、お互いに自分の財産はすべて見せ合ったうえで、契約をしましょう、という のが原則。もし、富豪の旦那さんが自分の財産の一部しか教えずに、「離婚した時にはこれを半分あげるから」と言っていた場合には、その婚前契約は原則として無効ってこと。
それから②について。婚前契約の場合には、何十年先に執行されることもあるわけで。それまでの間に何か起きるかわからない。富豪の旦那さんは、事業に失敗して破産してしまっているかもしれない。契約を締結する時点でお互いに「公平」だと思ったことが、そうじゃなくなる可能性だってあるのだから、そのときには契約をその通り執行することはしない。
さらに、婚前契約が普通の契約と違うのは、それが「踏み絵」であるということである。
婚前契約というのは、財産のある男性が、若くて美貌ではあるが財産がない女性と結婚するときに、離婚後に自分の財産が守られるように契約をするのが、今のところ典型。
たとえば、結婚前夜に、こういう会話が交わされるのである。
男:「君は僕のどこが好きなの?」
女:「あなたのやさしさと誠実さよ」
男:「そうか、君は僕の財産が目当てじゃないんだね。今まで僕が付き合った女性は、みんな結局はお金目当てだったんだよ」
女:「私は、その人たちとは違うわ」
男:「そうか、それはよかった。今の言葉、信じてもいいのかな?君は財産目当てじゃないって言ったよね?結婚中のお金の話とか、離婚のときのお金の話とか、そんなことには興味がないんだよね。だったら、この婚前契約にそのままサインできるはずだよね」
ね、これって踏み絵でしょ?財産目当てではないと証明するために、女性の方は、不利な契約であっても文句を言わずにそのままサインしきゃいけなくなる。いくらこれは少ないなって思っても、「離婚のときには、もっとください」とか言えないでしょ、結婚前に、普通の神経なら。
それに、一方には弁護士がついていて、一方はそうじゃなくてってこともあるわけで、この知識と交渉力の格差をなんとか改善しなきゃいけないよね、って議論は当然にある。そこで、当事者同士が本当に「強制」ではなくて、「自由意志」でサインしない限り、その契約は無効にしましょうという議論もされている。
2.婚前契約の必要性について
次に婚前契約の必要性について。キャスターの方が「結婚前に離婚の話なんて」と、婚前契約に不快感を示した。しかし、婚前契約の内容は、必ずしも離婚の際の条件だけではないのである。
正しく使えば、婚前契約というのは、お互いが結婚に対して何を期待するかというすり合わせの道具になるのである。
「君が仕事を頑張っているのは尊敬しているよ。だけど、結婚したら基本的には家にいて僕を支えてほしいんだ」
「わかりました。じゃあ、仕事辞めますね」って。
お互いが結婚のために、どういう価値を優先していて、そのためにどっちが何を犠牲にしたのかを明確にしておくという効果がある。
たとえば、よくわからないけれど、道端ジェシカさんの件だって、報道によれば、結婚する前は、レースのたびにジェシカがバトンについて世界中をまわっていたのが、結婚したとたんにそれをやめて自分のキャリアを優先しだしたのが原因だとかなんとか。これだって、婚前契約を結んでいれば、その手前でお互いに結婚に期待するもののずれが見いだせて、話し合うことができたかもしれないしね。
まあ、そうはいっても結婚というのは、その前にはお互い何でもよく見えるし、調子のいいことを言い合うらしいので、本当のところはよくわからりませんけどね。ということで、今日は、婚前契約のお話でした。
写真はハネムーンを思わせるバリのバラ風呂。私の場合には、妹と二人で行きましたが何か??
